なぜ変位を考えるのか(前回の話を踏まえて…)
前回の記事では、位置と変位について考えてきた。次に速度という物理量を考えるが、その前になぜ変位を考えたのかということに言及してみよう。
「変位をなぜ考えるのか?」
この問いに答えるに当たっては、力学という学問の目的について理解している必要があるだろう。
「力学という学問の目的は何か?」
この問いに対する筆者の回答は、
「運動する物体について数学的に記述すること」である。
もっと具体的にいうと、位置が時刻によってどのように変化するのかを数学的に記述することである。そのため物体の位置がどれくらい変化するのかを表す変位は重要な物理量なのである。
ここまでの話を聞くと、変位について考える意義については理解できたと思うが、変位だけでは力学という学問の目的を達成することができない。
足りない情報とは何だろうか。それはその変位するのにかかった時間である。
以下の例で考えてみよう。

AさんもBさんも同じく変位は +3 である。
ただし次の次のような情報が入ったとしても同じだと言えるだろうか?
Aさんの変位にかかった時間は 3 秒で、Bさんの変位にかかった時間は 300 秒である。このような情報が与えられれば、Aさんの方がBさんよりも ” 速く ” 運動したと言うことができるのではないだろうか。
そうだとするならば、AさんとBさんの運動は異なる運動として考えるべきだろう。それを表す物理量を定義できないだろうか。
ではこれから今回の本題に入ることにしよう。
速度 v [m/s]
先ほどのAさんは ” 速い ” 、Bさんは “遅い” と言えるのはなぜだろうか?
それはAさんとBさんが同じ時間に進んだ距離がAさんの方が大きいからである。
AさんとBさんの 1 秒間における変位を考える。
1 秒という時間における変位を求めたければ、実際の変位を実際の経過で割れば求めることができるだろう。
(Aさんの 1 秒間における変位の平均)= 3 ÷ 3 = 1
(Bさんの 1 秒間における変位の平均)= 3 ÷ 300 = 0.01
変位に平均という言葉が付いていることが気になるかと思うが、いったんスルーしてほしい。
やはりAさんの方が 1 秒間という同じ時間に進んだ距離は大きいことが分かる。このように同じ時間における物体の変位というのは物体の ” 速さ ” を表す指標となっており、物理学ではこの物理量のことを速度と呼ぶことにしているのである。