~~ 物理の流儀を添えて… ~~
物理の目的は運動を考えることにある。そして運動をするというのは「物体の持つ位置という値が、時刻によって変化すること」であった。そのため時刻という物理量を考えることに意義があることには納得してもらえると思う。
ここで出てきた物理量という言葉をまずは確認しておこう。物理量とは「測定によって数値で表すことができる客観的な量のこと」である。数値で表現できるがゆえに客観的であり、測定ができるがゆえに扱う値は物理的に意味のある数値であるということになる。そのため、物理では物理量という値を常に考えて議論を進めていくことになる。
この記事では「時刻」とよばれる物理量と、「時間」という物理量について考えていこうという訳である。
なぜ「時刻」と「時間」を区別する必要があるのか?
「時刻」と「時間」という用語は非常に似ている。実際、日常生活においてしっかりと区別している人の方が少ないのではないだろうか。
しかし、物理においてこの2つは明確に区別している。まずは定義を確認しておこう。
- 時刻…時の流れにおける、ある瞬間を表す物理量
- 時間…2つの時刻の変化量を表す物理量
例えば、午前8時00分は時刻であり、午前8時00分から午前8時30分までの30分間は時間である。このことから分かるように、
(時間)=(後の時刻)ー(前の時刻)
という関係が成り立っていることが分かる。
この世界に、時の流れというものがあるという事は、多くの人にとっては納得のいく事実であろう。(本当に存在するのかどうかという疑問は大いにあるのだが…)。そのある瞬間を数値で表したものが、時刻であるということである。
そして時刻は常に変化を続けている。時刻という値が、どれくらい変化したのだろうかという事を表す物理量を、新たに時間と呼ぶことにしたのである。
このように考えると、一見時刻だけでいいのではないかと思ってしまうかもしれない。しかし多くの物理における議論において、時刻よりも時間を考える場合の方が多い。なぜならある現象が起こるのに、どれくらいの時間が経過したのかということを考える場合が多いからである。
そのため、物理では「時刻」と「時間」を明確に区別して考えることにしている。ただし、時刻についての理解が十分にできていれば、その変化量である時間についても十分に理解ができると予想できるため、もう少し「時刻」について議論を深めておこうと思う。
時刻の記号と単位
物理ではよく物理量を表現する際に、記号を用いることが多い。時刻は記号で を用いる。英語で「時」を「time」と表現するため、その頭文字をとっているのである。
なぜ記号を用いるのかというと、毎回、時刻と書くのが面倒だというだけでなく、物理を学習している人であれば万国共通であるというご利益もある。しかし何といっても一番の理由は、他の物理量との関係を数式で表現できることにある。この事については、この記事の終盤で説明をしてみようと思う。
記号と混同しがちなのが、単位である。時刻の単位は複数あるが、物理でもっとも多く使われる単位は [s](秒)である。その外にも、[h](時間)などがある。
必要な物理量には必ず単位をつける必要がある。例えば以下のような例において、どちらの時間の方が長いかを考えてみる。
- 時刻 から時刻 までの時間 6
- 時刻 から時刻 までの時間 3
一見、上の時間 6 の方が 長いように思える。しかし、単位をつけて考えてみるとどうだろうか?
- 時刻 [s] から時刻 [s] までの時間 6 [s]
- 時刻 [h] から時刻 [h] までの時間 3 [h]
このように書くと下の時間 3 [h] の方が長い時間を表していることが明らかであるだろう。このように物理量には単位をつけないと、表した数値が客観的に評価できなくなるのである。
そして大事な事を述べておこうと思う。時刻の基準すなわち は、(問題で指定されていなければ)こちら側で自由に設定してもよいということである。
前回の記事で例に挙げた、通天閣から鉄球を落とす運動を考えた際に、落とした瞬間を [s]としたことを覚えているだろうか?これは、落とした時間は午前1時10分07秒だったから、落とした瞬間の時刻は [s] で… などと考えなくてよいという事である。
この事実は大変有難く、運動を考え始める時刻を基準 [s] として良いという事を意味している。
ここまでの時刻についてまとめておこう
- 時刻は記号で を用いる
- 時刻の単位は [s] を用いる
よって通天閣から鉄球を落とす場合、落とした瞬間の時刻を基準とすると、3秒後の時刻は [s] と表されることになる。
時間の記号と単位
時間の記号には を用いる。(読み方はデルタ)は変化量を表す記号である。 は1文字として理解してもらえればよい。
補足
時間の記号に を用いる場合がある。非常に厄介だが、こればっかりは時と場合で解釈してもらうしかない。私の記事では(よっぽどの事がない限り)時間は と表記することにしようと思う。
そして前述したように、時間は時刻の変化量を表す物理量であるため、時間の始まりの時刻 と終わりの時刻 の差と等しくなる。この事実を記号で表現すると次のようになる。
これが先ほど触れた「他の物理量との関係を数式で表現できることにある」の具体例である。時刻と時間の関係が、日本語ではなく、数式という言語で表現されているのである。
今大事な事を述べたので、もう一度強調しておく。数式は言語である。そのため の数式は「デルタティー イコール ティーツー マイナス ティーワン」と理解するのではなく、「時間という物理量は、その時間の終わりの時刻の値から、その時間の始まりの時刻の値を引くことによって計算される物理量である」と理解しなければならないという事である。英語を日本語に訳すように、数式も日本語訳すべしという事だ。
単位は時刻と同じく基本的には [s] である。ただし時間は上述の の関係より、どちらの時刻とも同じ単位である必要がある。 と の単位が [h] であるなら当然、時間 の単位も [h] となることには注意してほしい。
まとめ
ここまで、丁寧に(口うるさく)解説しているものはなかなか無いだろう。ここまではっきり理解できていなくても大抵の問題は解けてしまう。しかし、一度深く議論しておくことには意味がある(と私は信じてる)。読者の皆さんにも、丁寧な議論が報われると信じて、引き続きお付き合いいただきたい。
